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それから_田中理恵.md

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それから

夏目漱石 田中理恵

あらすじ

実業家の父の援助で大学卒業後も気ままな生活を送る高等遊民、代助は、三年ぶりに親友の平岡と再会する。彼の妻の三千代は、愛していたのに、つまらない義侠心(ぎきょうしん)から平岡に譲ってしまった女性だった。生活に窮する平岡。三千代への愛が再燃する代助。愛を成就(じょうじゅ)させることに覚悟を決めた二人だったが、親からの縁談を拒否した上に、三千代との関係がばれた代助は勘当(かんどう)されてしまう。街にある赤が代助の頭に飛び込み、何もかもが赤く回転する中、代助は頭が焼き尽けるまで電車に乗っていこうと決心した。

解説

社会のルールに縛られることを嫌う高等遊民である代助が、腹が決まったのかと思いきや、三千代の覚悟を見せられて逆にどぎまぎしてしまうというこのシーン、恋愛においての男の頼りなさがよくわかる。『それから』は漱石の中でも恋愛小説らしい恋愛小説。女性に自由意志があまり認められないこの時代では、西洋の恋愛小説の様式をそのまま持ってくることもできず、真っ向から恋愛小説に取り組むのは難しかったと思われるが、昔の密かな想いを再燃させるというシチュエーションを工夫して、男女の恋愛そのものをテーマに描き切った。『それから』に続く、三部作といわれるうちのひとつ『門』は、社会から外れてひっそりと暮らしていく男女というテーマでつながっているといえる。

1

それから 夏目漱石

「僕は今更こんなことをあなたに云うのは、残酷だと承知しています。それがあなたに残酷に聞こえれば聞こえるほど僕はあなたに対して成功したも同様になるんだからしかたがない。その上僕はこんな残酷なことを打ち明けなければ、もう生きていることができなくなった。つまりわがままです。だから詫るんです」 「残酷ではございません。だから詫るのはもう廃してちょうだい」  三千代の調子は、この時急にはっきりした。沈んではいたが、前に比べると非常に落ち着いた。しかししばらくしてから、また 「ただ、もう少し早く云ってくださると」と云い掛けて涙ぐんだ。代助はその時こう聞いた。―― 「じゃ僕が生涯黙っていたほうが、あなたには幸福だったんですか」 「そうじゃないのよ」と三千代は力を籠めて打ち消した。「私だって、あなたがそう云ってくださらなければ、生きていられなくなったかもしれませんわ」  今度は代助のほうが微笑した。

  • 今更
  • 云う
  • こと
  • あなた
  • わがまま
  • 詫る(あやまる)
  • 廃す(よす)
  • ちょうだい
  • 三千代
  • 云い掛ける
  • 代助
  • 籠める(こめる)
  • 私(わたくし)

   三千代破涕为笑了,但是一声不吭。代助仍旧有乘此表白自己的机会。

“我知道事至如今再来同你讲这种话是很残酷的。如果在你那方面越听越感到残酷,在我这方面就越感到我在你身上获得了成功,所以不能自已。再说,我要是不把这令你感到残酷的事情披露出来,我是活不下去的。就是说,我现在光想到了自己。为此,要请你多加原谅。”

“这事不能算残酷,所以请你别说什么原谅不原谅了。”

这时三千代的语调顿时变清晰了。虽说还颇深沉,却远比先前平稳了。

但是没一会儿,三千代说道:“不过,你早点儿对我说的话……”她没把话说完,又流泪了。

于是代助问道:“那么,我永远保持缄默不说出来,对你是幸福的吗?”

“当然不是啰。”三千代竭力予以否定,“你要是不这么讲出来,我这个人也许活不下去了呢。”

这一次是代助微笑了。


2

「それじゃ構わないでしょう」 「構わないよりありがたいわ。ただ――」 「ただ平岡に済まないというんでしょう」 三千代は不安らしく頷いた。代助はこう聞いた。―― 「三千代さん、正直に云ってごらん。あなたは平岡を愛しているんですか」 三千代は答えなかった。見るうちに、顔の色が蒼くなった。眼も口も固くなった。すべてが苦痛の表情であった。代助はまた聞いた。 「では、平岡はあなたを愛しているんですか」 三千代はやはり俯いていた。代助は思い切った判断を、自分の質問の上に与えようとして、すでにその言葉が口まで出掛かった時、三千代は不意に顔を上げた。その顔には今見た不安も苦痛もほとんど消えていた。

  • 構う
  • 平岡​
  • 三千代​
  • 頷く
  • 代助​
  • 云う​
  • 蒼い
  • 固い
  • 俯く
  • 出掛かる

“这么说来,一切都不碍事啰?”

“岂止是不碍事,还真值得庆幸呢!美中不足的是……”

“美中不足的是对不起平冈,对吗?”

三千代不安地点点头。

代助问道:“三千代,你对我说心里话,你是不是爱平冈?”

三千代不回答。她的脸色眼看着变青了,眼睛和嘴巴都发僵了,无不表现出一种痛苦的神情。

代助又问道:“那么,平冈是不是爱着你呢?”

三千代依然低垂着头。当代助想以大胆的判断来核实自己的发问,而且话正要脱口而出的时候,三千代突然抬起脸来。刚才三千代脸上的不安和痛苦,这时消失得几乎是无影无踪,

3

涙さえ大抵は乾いた。頬の色はもとより蒼かったが、唇は確として、動く気色はなかった。その間から、低く重い言葉が、繋がらないように、1字ずつ出た。 「仕様がない。覚悟を極めましょう」 代助は背中から水を被ったように震えた。社会から逐い放たるべき2人の魂は、ただ2人向かい合って、互いを穴の明くほど眺めていた。そうして、すべてに逆らって、互いを一所に持ち来たした力を互いと怖れ戦いた。 しばらくすると、三千代は急に物に襲われたように、手を顔に当てて泣き出した。代助は三千代の泣く様を見るに忍びなかった。肱を突いて額を五指の裏に隠した。2人はこの態度を崩さずに、恋愛の彫刻の如く、じっとしていた。

  • 大抵
  • もとより
  • 蒼い
  • 確と
  • 気色
  • 1字
  • 仕様
  • 極める
  • 代助
  • 震える
  • 逐い放たる
  • 2人
  • 穴を明く
  • 持ち来たす
  • 戦く(おののく)
  • しばらく
  • 三千代
  • 五指
  • ~の如く

穴(あな)のあくほど

じっと見つめるようすをいう。

泪迹也干了。两颊比方才还要青,但紧咬嘴唇,一副决心不动摇的样子。只听得三千代从中发出了低沉的声音,是一个字一个字地、断断续续地发出来的。

“没有办法。豁上了吧。”

代助听了不寒而栗,仿佛背上被浇了水似的。这两个理应会遭到社会谴责的魂魄,只是相对而坐,互相注视着对方。而那种来自同仇敌忾、逆潮流而行的力量,又使他们感到战栗。

过了一会儿,三千代像是突然遭到了袭击似的,用手掩着脸哭起来了。代助不忍看着三千代哭泣,遂支着手臂,把额部躲到五个手指的后面。两个人就这么保持着自己的姿态一动不动,仿佛一尊以爱情为题的塑像。